塗り清める

塗り清める

――木の外廊下が教えてくれる、心の手入れ――

お寺の木製外廊下は、よく人の目に触れます。

雨の日も、晴れの日も、

法要の日も、何気ない朝も、

黙って人の足を受け止めています。

その外廊下は、定期的にクリア塗装をします。

色を派手に変えるわけでもなく、

新しく見せびらかすためでもありません。

ただ、

木を守るために、

長く使うために、

黙々と塗るのです。

これは、

誰に教えられなくても分かる、

ごく当たり前のことです。

けれど、この「当たり前」の中に、

仏教の大切な教えが

静かに息づいています。

木は、何も言わない

木の外廊下は、

「傷んできました」とは言いません。

「そろそろ手入れをしてください」とも

訴えません。

雨に打たれ、

日差しにさらされ、

人に踏まれながら、

ただ、そこにあります。

しかし、

手入れを怠れば、

少しずつ傷み、

やがて腐り、

使えなくなってしまいます。

人の心も、

実はこれとよく似ています。

たとえ話① 気づかぬうちの劣化

外廊下の傷みは、

一晩で起こるものではありません。

少しずつ、少しずつ、

気づかぬうちに進みます。

心も同じです。

怒りや、妬み、

焦りや、諦め。

一つ一つは小さくても、

放っておけば、

心の表面を乾かし、

ひび割れさせていきます。

ある日ふと、

「どうして、こんなに疲れているのだろう」

「なぜ、やさしくなれないのだろう」

そう思ったとき、

すでに心は、

手入れを求めているのです。

塗るとは、覆い隠すことではない

クリア塗装は、

木の色や木目を消しません。

むしろ、

そのままの姿を活かしながら、

外からの傷みを防ぎます。

仏教でいう「清める」とは、

汚れをなかったことにする

という意味ではありません。

怒った自分、

迷った自分、

弱い自分。

それらを消すのではなく、

そのままの自分を保ちながら、守る

それが清めるということです。

坐禅も、

良い心になるために坐るのではありません。

今の心を、

そのままに見つめ、

そのままに置く。

それが、

心のクリア塗装なのです。

たとえ話② 磨きすぎた廊下

ある人が言いました。

「もっときれいにしよう」と。

毎日のように磨き、

削り、

光らせました。

けれど、

木は次第に痩せ、

寿命を縮めてしまいました。

心も同じです。

「もっと立派にならねば」

「間違ってはいけない」

「弱さを見せてはいけない」

そうやって磨きすぎると、

心は疲れ、

かえって脆くなってしまいます。

塗り清めるとは、

削ることではなく、

支えることなのです。

定期的に行う、という意味

外廊下の塗装は、

一度やれば終わりではありません。

数年に一度、

状態を見ながら、

また塗り直します。

心も同じです。

一度、気づいたからといって、

一生安泰ということはありません。

だから仏教では、

日々の行、

日々の確認を大切にします。

朝、手を合わせる。

一息、呼吸を整える。

一日を振り返る。

どれも小さなことですが、

それが、

心を長持ちさせる秘訣です。

たとえ話③ 雨の日の廊下

雨の日、

塗装された外廊下は、

水をはじきます。

完全に防ぐわけではありません。

それでも、

直接染み込むのとは違います。

心も同じです。

悲しみや、失敗、

避けられない出来事は、

必ずやってきます。

けれど、

日頃から心を整えていると、

その衝撃は、

少し和らぎます。

坐禅や、祈り、

感謝の言葉は、

人生の雨に備える

透明な塗膜のようなものです。

「当たり前」を丁寧に生きる

外廊下の塗装は、

派手でもなく、

感謝されることも少ない仕事です。

それでも、

やらなければ、

必ず結果が現れます。

仏教が大切にするのは、

特別な悟りよりも、

当たり前を丁寧に生きることです。

掃く。

拭く。

塗る。

坐る。

それらはすべて、

心を清める行です。

結びに

木製外廊下は、

今日も静かに人を迎え、

人を送り出します。

誰に褒められなくても、

黙って役目を果たします。

その姿は、

私たちが目指す

生き方そのものかもしれません。

定期的に、

自分の心に目を向け、

そっと塗り清める。

完璧でなくていい。

新品でなくていい。

長く、

やさしく、

使い続けられる心であること。

それが、

仏教の教える

ほんとうの豊かさなのです。

どうぞ今日、

一息だけでも、

自分の心の外廊下に

手を伸ばしてみてください。

その小さな行が、

あなたの人生を、

静かに、

長く支えてくれることでしょう。

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