
お孫さんに伝えたい祖父母の言葉
おまえが生まれた日のことを、いまでもよく覚えているよ。
あのとき、病院の窓の外には、やさしい春の風が吹いていた。
桜がちらちらと舞い、まるで天から祝福が降ってきたようだった。
おまえの小さな手を初めて握ったとき、
「人の命って、こんなにも尊いのか」と思った。
あれから何年もたったけれど、そのぬくもりはいまでも、
この手の中に残っているような気がする。
―――
おまえはこれから、いろんなことを経験していくだろう。
楽しいことも、苦しいことも、
うれしい出会いも、悲しい別れも。
けれどね、どんなときでも、忘れないでほしい。
「あなたは、あなたのままでいい」ということを。
うまくできなくてもいい。
人より遅くてもいい。
泣いても、怒っても、弱音を吐いてもかまわない。
おまえが生きているということそのものが、
もうすでに、尊いんだよ。
お釈迦さまは、「人として生まれることは、海の中で亀が浮木の穴に首を入れるように難しい」とおっしゃった。
それほどに、いのちは奇跡なんだ。
だから、自分を責めたり、誰かと比べて落ち込んだりするより、
いまここに自分が生きていることに、
まず「ありがとう」と言える人であってほしい。
―――
昔の人はね、よく「足るを知る」って言ったんだ。
「足りない」と思う心が苦しみを生む。
けれど「これで十分」と思えたとき、心はふっと軽くなる。
欲しいものが全部手に入ることが幸せではない。
いま目の前にあるものに「ありがとう」と言える心、
それがほんとうの幸せなんだよ。
お金がなくても、いい人にめぐり逢えなくても、
計画どおりにいかなくても、
「それでも、まあいいか」と笑える人は強い。
幸せは、遠くにあるんじゃない。
いま、自分の足もとにある。
ただ気づいていないだけなんだ。
―――
おまえがつまずいたり、失敗したりして、
どうしようもなくなったとき、思い出してほしい。
じいちゃんも、ばあちゃんも、
うまくいかないことばかりの人生だった。
努力してもうまくいかないこと、
一生懸命やっても報われないこと、
たくさんあったよ。
けれどね、それでよかったんだ。
うまくいかなかったおかげで、
人の痛みがわかるようになった。
思いやりというものを、少しだけ覚えた。
おまえも、苦しいときほど、
やさしさの種が育っていると思ってごらん。
花が咲くには、土の中の暗闇が必要なんだ。
人もまた、苦しみの中でこそ、
ほんとうの光を見つけるんだよ。
―――
人間ってね、「ありがとう」と「ごめんなさい」が言えるかどうかで、
その人の深さが決まるんだよ。
「ありがとう」は、感謝の心。
「ごめんなさい」は、素直な心。
どちらも、自分の心が柔らかくないと出てこない。
だから、どんなに偉くなっても、
どんなに賢くなっても、
この二つの言葉だけは忘れないでほしい。
人に親切にしてもらったら、「ありがとう」。
失敗したら、「ごめんなさい」。
それで十分。
それだけで、人は人を好きになれる。
それだけで、世界は少しやさしくなる。
―――
ばあちゃんが若いころね、
あるお坊さんがこう言ってくれたんだ。
「苦しいときには、深呼吸をしなさい。
息をすって、いのちをいただく。
息をはいて、ありがとうを返す。
その繰り返しが、生きるということだよ」と。
それからというもの、
ばあちゃんはしんどいとき、いつも息を見つめるようになった。
するとね、不思議と落ち着くんだよ。
心が乱れているときほど、呼吸は浅くなる。
呼吸をゆるめると、心もゆるむ。
おまえも、怒ったり泣いたりしたとき、
まずは「すーっ」と深呼吸してごらん。
世界が少しやさしく見えるから。
―――
もうひとつ、大事なことを言っておこう。
「人を大切にすること」。
人を大切にできる人は、
いつか必ず誰かに大切にされる。
人を笑顔にできる人は、
自分も笑顔になれる。
人の悪口を言えば、自分の心も汚れる。
人を思いやれば、自分の心も澄んでいく。
仏さまは、「すべての命はつながっている」とおっしゃる。
おまえの笑顔が、どこかで誰かを救っているかもしれない。
おまえのやさしい言葉が、誰かの涙を止めているかもしれない。
だから、どうか、
自分の言葉と行いを大切にしてほしい。
それがそのまま、おまえ自身をつくっていくから。
―――
じいちゃんもばあちゃんも、
もうそう長くは生きられないかもしれない。
だけど、それでいいと思っている。
命というのは、川の流れのようなものだ。
上流から流れてきた水は、下流へと続いていく。
私たちは、おまえにその流れを渡す番になっただけなんだ。
だから、おまえが元気で笑って生きてくれることが、
何よりの供養であり、何よりの恩返しなんだよ。
私たちの人生がどんなものであっても、
おまえの笑顔ひとつで報われる。
―――
最後にね、おまえにこの言葉を贈ろう。
「人は、幸せだから笑うんじゃない。
笑うから、幸せになるんだよ。」
苦しいときほど、笑ってごらん。
無理にでも、にこっとしてごらん。
それだけで、心の曇りがすこし晴れる。
おまえの笑顔が、この世界を明るくする。
それを、じいちゃんとばあちゃんは、
どんなときでも信じているよ。
―――
おまえが生きる道に、
どうか光がありますように。
悲しみのあとには、やさしい風が吹きますように。
そして、どんなに遠く離れても、
この想いが、おまえの心の中でそっと寄り添っていますように。
ありがとう。
生まれてきてくれて、ほんとうにありがとう

